黒核子〜一人っ子政策の大失敗

 中国は国家の存亡にかかわる問題を多数抱えているが、最も深刻かつ、絶望的な問題の一つであると同時に、おそらく最もなぞに包まれている問題は黒核子の問題であろう。今のところ全く解決の見込みがないどころか、ますますひどくなるばかりで、この国を目を覆いたくなるほど蝕み続けている。誰も、少なくとも中華人民共和国において指導的立場にあるものは誰一人としてこの問題に何らかの対策を施そうとは考えていない。

 人口増加は発展途上国が抱える共通の悩みである。よって何らかの形で産児制限政策を取っている国はそれほど珍しくない。たんなるスローガンに留めている国もあれば、避妊手術を奨励したりなどさまざまである。しかし中華人民共和国では二人目の子供を生むと厳しい制裁が待ち受けているだけではなく、生涯において冷遇され続ける制度となっているため、生んだ親本人が普通の人間として生きていく代わりに、二人目以降の子供が戸籍が登録されないまま生涯を送らなければならない。戸籍がないというのはどれほど恐ろしいことなのだろうか。それはこの世に存在を認められないこと、人間として認められないことを意味する。このような子供を中国語では黒核子(ヘイハイズ)と呼ばれる。黒核子には教育を受ける権利は全く認められず、まともな仕事にありつくことさえもできない。何か仕事ができるとすれば親元で農業をやるか、女性であれば自分の体を奉仕するためにささげるか、もしくはマフィアなどの犯罪組織などに入るしかないであろう。

 この世の中で全ての人間が幸福に暮らすことなど不可能である。世の中には恵まれている人と恵まれていない人がいる。ある人は交通事故にあうかもしれない。ある人は天災に遭遇するかもしれない。ある人は騙されて財産を失うかもしれない。通常、普段からこのようなことを心配している人はあまりいないであろう。こういったことは偶然によって生じることであり、割合から言えばごく少数のものがこのような目にあうのである。

 しかし黒核子の問題は偶然によって起きたのではなく、原因も責任の所在も明確である。さらに、黒核子という悲惨極まりない運命を背負わされたものたちはごく少数ではなく、膨大な数にのぼっているのである。その数は当然ながら人間として認められていない者たちについてなので正確な統計などあるわけがないが、推定によると6000万人を超えるといわれている。日本の人口の約半分、イギリスやフランスの人口とほぼ同じ、香港の人口の10倍、シンガポールの人口の20倍である。つまり中国にいる人間の20人に一人が人間として認められていないと言うことになる。しかも、一人っ子政策は1979年から始まったものだから、黒核子はすべて26歳以下ということになる。26歳以下の世代で言えばおそらく10人に1人以上の割合になることは間違いないであろう。

 黒核子の第一世代はすでに26歳になっているわけで、すでに戸籍のない子供がさらに戸籍のない子供を生む事態となっている。するとこれからどういう事態になるか想像できるだろうか。一人っ子政策は都市部ではほぼ守られている。都市において豊かで文明的な生活を営み、高い教育を受けているものには一組の夫婦に一人の子供しか生まれない。夫婦は二人いるわけでその間に一人の子供しかいないわけだから、文明的な環境で育てられる子供の割合はどんどん少なくなってくる。その一方で貧しく、まともな教育さえも整っていない農村では一人っ子政策はあまり守られておらず、2人も3人も子供を生み、2人目以降の子供は黒核子となっていく。黒核子は全く教育を受けていない。字の読み書きなど当然できるわけもないし、教育を受けていないので世の中のさまざまな概念が理解できないに違いない。そして彼らが大人になると、また次々と黒核子を生んでゆく。彼らには産児制限とか人口が増えすぎることによる優生学上の問題とか、概念的に理解できないであろう。彼らの頭には子供を制限すると言う発想が浮かばずに3人でも4人でも5人でも子供を生み続けるに違いない。こうして黒核子の絶対数が増えるのはもちろんだが、戸籍のある人に対する、黒核子の割合が今後雪だるま式に増えていくことになる。

 現在は一人っ子世代における黒核子の割合は1割ほどと推定されるが、このまま放っておけば2割、3割、4割と増えていくのは明らかである。中国政府は2010年には一人っ子政策をやめて一組の夫婦に2人まで認めるという。しかしこれは根本的な解決には程遠い。一人っ子政策をやめたからと言って黒核子を人間として認めるわけではなく、膨大な数の黒核子は残り続ける。仮にこれによって戸籍のある農村の親たちから新たな黒核子が生まれなくなったとしても、すでに普通の国家の人口を上回る規模に膨らんでいる黒核子たちが際限なく新たな黒核子を生み出す現象にはまったく歯止めがかけられない。結局のところ、2010年以降にも黒核子の絶対数が増え続け、なおかつ人口に対する割合も増え続けると言う事態は変わらない。

 このような絶望的な状況をもたらした原因と責任ははっきりしている。一人っ子政策そのものが根本的に間違っているのである。産児制限政策はさまざまな国で試みられているが中国では絶対にやってはいけない方法で産児制限を行ってしまった。よく、一人っ子政策によって、中国は極めて短期間のうちに多くの人々を貧困から脱出させたなどと言う意見があるが、たしかに一人っ子政策によって貧困層の数を減らすことはできたかもしれない。その代わり、膨大な数の絶望的超貧困層を生み出したのである。一人っ子政策は大失敗である。今すぐにやめなければならない。

 

 

 

 




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