四川大地震について
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四川大地震による死者数は5月18日現在で3万人を超えている。亡くなられた全ての方々のご冥福をお祈りすると共に、一日も早く復興が進み、被災者たちが立ち直ることを望んでいる。 ■中国の行政区分について この地震について述べる前に、中華人民共和国の行政区分について説明しておきたい。中国の一級行政区は言うまでも無く省及び自治区である。その下に市及び少数民族の自治州がある。ややこしいのは市の中に市、県、区が並列の関係にあることである。上位の市を地級市、下位の市を県級市と呼ぶこともある。 省 自治区 直轄市 今ニュースで盛んに名前が取り上げられる成都市、綿陽氏は地級市、都江堰氏は成都市の中の県級市である。地級市は日本の市とは概念が異なっており、成都市の人口は1100万人で、面積は長野県に匹敵する。その中でも一般的に成都というと中心部の市街区を指しており、面積は日本の大都市と同程度、人口は400万〜500万ほどである。
■アバ・チベット族チャン族自治州 震源地であるブンセン県は四川省アバ・チベット族チャン族自治州の東部にあり、言わばチベットの最東端である。成都市は四川盆地にあって基本的に平地なのだが、中蔵国境の都江堰市を通り過ぎると急に険しい山岳地帯となる。北海道に匹敵する8万平方キロの面積があるが、人口は85万人。チベット族が52.3%、漢族が26.6%、チャン族が17.7%を占めている。広大なアバ州は東部に九寨溝、黄龍、四姑娘山、臥竜パンダ保護区などの世界的に有名な観光地が集中している。なおかつ東部は中国に直近であるため、中国による集中的な観光開発とインフラ整備が施された。道路も整備され、大規模なホテルや中小の宿泊施設も次々と建設され、九寨溝の近くには空港もオープンした。必然的にアバ州東部は中国人の割合が高く、ブンセン県では漢族が46%に達する。 震源地のブンセン県は四姑娘山のほか、臥竜パンダ保護区を抱えており、パンダの安否が懸念される。すでにパンダ86頭の生存は確認されたが、交通網が遮断されているため餌の供給が滞っている、不安は拭いきれない。パンダ繁育研究基地も物理的被害を被っているはずだ。私はパンダの政治利用に反対する立場から上野動物園のパンダ受け入れに反対していたが、おそらくこの震災で今秋のレンタルの話は流れると思う。もし予定通りパンダを受け入れるとしたら、パンダ保護の観点から反対すべきであろう。 私は数年前にブンセン県を観光で訪れており、宿泊したホテルが倒壊し、従業員が下敷きになったであろうことを考えると胸が痛む。豊かな自然に恵まれたこの地域の一日も早い復興を望んでいる。 ■成都市 アバ州に接する成都市の中で特に被害が甚大だったのは都江堰市である。大地震発生当日に温家宝首相が訪れたのもここだ。人口63万人のうち、50万人が屋外での生活を余儀なくされ、すでに千人以上の犠牲者を出している。都江堰市は西暦前3世紀に造成された世界最古の水利施設都江堰を抱え、それがそのまま都市の名前にもなっている。周辺には数多くの寺廟も建設されているが、その多くが倒壊、有名な仁王廟も跡形も無く失われた。道教の聖地である青城山の被害も懸念される。成都市内の都江堰市の隣の彭州市でも10万人の被災者が発生している。 今回の大地震で不幸中の不幸中の幸いとも言えるのが、成都市の市街区の被害が小さいことだ。ニュースでも報じられている通り、震源地のブンセンから北東に細長く断層帯が広がっており、そのため徳陽や綿陽などの北部が集中的にやられている。そのため震源地より南東に位置する成都市街区は甚大な被害を免れた。もし震源地があと数十キロ近ければ死者数は数十万人に達したかもしれない。 ■徳陽市、綿陽氏、広元市 成都市の北に位置する徳陽市では西北部のshifang市と綿竹市の被害が甚大で、すでに9000人近い死者を出すに至っている。徳陽のさらに北に位置する綿陽市は成都よりも震源地から離れているにも拘らず、断層帯にかぶってしまった。同市西部の北川チャン族自治県は震災発生当日にいち早く5000人規模の死者数発生が伝えられた。北川県はすでに四川盆地ではなく山岳地帯に位置している。 綿陽市のさらに北に位置する広元市は震源地からある程度離れているが、西部の青川県では80%の家屋が倒壊しており、2000人を超える死者を出している。日本の救助隊が派遣されたのもこの地域である。 ■中国政府の対応など 地震発生直後の中国政府の対応は迅速だった。当日夜には温家宝首相が被災地を訪れたのだから、13年前の阪神大震災で予定通りの公務をこなしていた村山総理とは偉い違いだ。だが海外の救助隊の受け入れを拒んでいたのは甚だ遺憾である。理由は様々な憶測が飛び交っているが、いずれにせよ日本の救助隊が現地入りした頃にはすでに4日が経過していた。もっと早く海外からの救助隊を積極的に受け入れていれば多くの命を救うことができたであろう。また、地震発生翌日に福建省で予定通りに聖火リレーが行われたときには私も激しい憤りを感じたが、その日の午後には聖火リレーの縮小が発表された。 とはいえ、私は批判のための批判をしたくはないし、常に客観的で公平でありたいと思っている。チベット暴動のとき、私は中国政府を猛烈に批判したが、それは客観的に見て中国政府の対応が狂信的なまでの破廉恥の極地だったからだ。四川大地震での中国政府の対応は、サイクロンで被害を受けたミャンマーの政府と比べればはるかに優れている。そもそも大災害において完全な対応というのはあり得ないし、今回は内陸部で起きた地震としては人類史上最大規模であり、いかなる完全無欠の手を尽くしたところで数万人規模の死者は避けられなかったであろう。 手抜き工事による人災が指摘されているが、私はちょっと違う見方をしている。省都クラスの大都市における高層ビルはともかく、そもそも中国の建築は始めから耐震性をそれほど考慮していないのであって、手抜き工事とは次元が異なる。ニュースでは、「中国は地震が少ないというイメージがあるが、実際には内陸部は地震多発地帯」という言い方がされているが、これはあまりにも大雑把過ぎる。日本の数倍の面積にあたる地域を数十年というスパンで見て大地震が幾度も発生していると指摘しても意味が無い。基本的に四川省は間違いなく地震が少ない。実際中国人には生まれてこの方地震を経験したことがないという人が非常に多い(今回の地震は北京や上海まで揺れが広がったので、地震を知らない人の数は数億人規模で減ったと思われる)。関東地方では震度3程度の地震は毎年起こっているが、中国人留学生には日本に来て初めて地震を経験したという人も珍しくない。このような事情が、手抜き工事以前の問題として、耐震性を考えない建造物を乱立させた要因であるし、そもそも中国という国が、上海などの大都会は別にしても、耐震性を考えるほどの文明度に達していなかったという見方もできる。 ■動静の伝わらないチベット人 震源地はチベット族の居住地域であることから新たな社会不安の発生も懸念されている。ネットではチベット人の動静が伝わってこず、意図的に放置されているという書き込みも見られる。ここで強調しておくべきことは四川省の地理であろう。成都市、徳陽市、綿陽氏は四川盆地にあり、かなりの人口密集地域であるのに対し、アバ州に入った途端険しい山岳地帯で人口過疎地域になる。しかもアバ州だけで北海道に匹敵する面積があるわけで、アバ州の西部は揺れは感じていてもさほどの被害は受けていないかもしれない。なおかつ東部は漢族の比重が高くなっている。 またチベット人の多くは今でも伝統的な家屋に住んでおり、概ね1階建てか2階建てである。このような伝統家屋は当然耐震性が弱く、住居を失ったチベット被災民が多く発生していることは予想される。一方で高層建築でないがゆえに、瓦礫の下敷きにならず、人命被害は小規模に留まっていることも予想される。ある程度の憶測を交えて話をしたが、情報はまだまだ不十分である。私はチベット人であるか中国人であるかを問わず、人命救助と被災民支援が順調に進むことを望んでいる。 ■結び 5月18日現在でまだまだ四川省は震災の苦境に喘いでいる。ダムの決壊による水害や疫病の蔓延も懸念されている。中国政府にとっては大きな試練となるであろう。3月14日にチベットによる暴動が発生したときには、私はチベット人の勇気ある行動を賞賛したし、国際的に猛烈な批判が強まったことから、私は今後のアジア情勢に前向きな展望を持つようになったし、この勢いで北京オリンピックに大打撃を与えたいと思っていた。 だが大地震という形で中国共産党が政治的ダメージを被る事は私の望むところではない。今私がここで強調したいのは、ネットの一部で見られるような、大災害を歓迎するような意見は慎まなければならないと同時に、同情心から中国共産党暴虐独裁政権への批判を躊躇してはならないということだ。私は今後も中国共産党の批判をやめるつもりはないし、北京オリンピックには引き続き反対していく。その一方で17日に行われたFREE
JAPANデモ行進では黙祷も捧げたし、ささやかながら募金もしている。被災者の方々には一日も早く立ち直ってほしいと思う。
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