5月24日、東京麻布の国際文化会館で「チベット問題と五輪の行方」と題する緊急シンポジウムが開催された。主催の岐阜女子大学南アジア研究センターは日本で唯一の南アジア研究センターで、ペマ・ギャルポ氏がセンター長を務めている。
セミナーではまずペマ・ギャルポ氏が演説を行った。3月10日の暴動は、49年間にわたってチベット人が我慢に我慢を重ねてきてついに爆発したという要素が大きい。チベットでは少なくとも120万人が虐殺され、数多くの寺院が破壊された。だが現在の中国政府は、全てを四人組のせいに擦り付けて決して過ちを認めようとしない。それどころか中国はチベットを解放して経済を発展させたと主張したが、これは例えて見れば隣の女性が美人だから強姦して、どうだ気持ちよかっただろう、感謝しろ、と言っているようなものだ。
また、チベットはインド、ネパール、ブータン、ミャンマーなどと国境を接しており、しかも核廃棄物の処理施設もあることから、チベット問題はアジアの安全保障に関わる問題であることも指摘した。
南アジア研究センター研究員の笠井亮平氏は、チベット問題における国際社会の反応について解説を行った。ヨーロッパ諸国は以前からチベット問題に大きく関心を持っており、昨年もドイツのメルケル首相がダライラマ法王と会談を行ったり、3月のチベット暴動後は各国の首脳が開会式の不参加を表明するなどしているが、一方で経済発展が続く中国への配慮も見られると指摘している。例えばフランスのサルコジ大統領は開会式の不参加を思わせる発言をしていたが、中国でカルフールに対するボイコット運動が起こると態度を軟化させ、開会式不参加はEU全体で議論すべきと表明している。
アメリカではブッシュ大統領が依然として開会式参加を取りやめていないが、連邦議会では共和党も民主党も大統領に開会式不参加を強く求めているという。また、議会の公聴会では、今後中国側とダライラマ側が、単なる形式的な対話ではなくいかに結果をもたらす対話を実現させるかに関心が集中しているという。
続いて現代中国評論家の辻庚吾氏が演説を行った。中国共産党は、チベットにはずいぶんお金を投資してインフラを開発し、経済を発展させた。にも関わらずチベット人は態度が悪い、と感じている。これはまさに帝国主義、大国主義が陥りやすい罠である。結局のところチベット問題は中国自身が変わらなければ永遠に解決しないであろう。
今の世界の状況ではアメリカにしろ、ロシアにしろ、かつての日本にしろ大国というのは何をしても批判される運命である。それを処理できなければ世界から真の大国とは認めてもらえない。しかし中国政府は今回のチベット暴動でも「ダライラマは暴力的」と発言するなど、全く理解できていないようだ。
現代中国を専門としている辻氏は、中国政府を正面から批判するわけではないものの、決して中国に媚びることなく、中国政治の本質を捉えているように思えた。
会場の収容人数は80人程度であったが、約120人がつめかけ、先日の吉田康一郎都議主催の講演会のときと同じく、入り口付近にまで椅子が増設されていた。私は岐阜女子大学南アジア研究センターのセミナーに参加するのは始めてであったが、他のテーマではこれほどの参加者は集まらないのであろう。チベット問題がいかに世間の関心が高いかを現していると思う。
ところで、前日の23日にダライラマ法王はイギリスを訪問し、イギリスのブラウン首相と会談している。早速中国政府は、「強い不満と断固たる反対」を表明した。大地震の死者が6万人にのぼる中、犠牲者には哀悼の意を捧げたいと思うし、中国政府の災害救助や復興支援はそれなりに評価できると思う。しかしだからと言って中国共産党が残虐行為をやめたわけではない。依然としてチベット人、ウイグル人、法輪功学習者、民主活動家に対する迫害は続いていることを忘れてはならない。被災者には大変同情するが、中国政府に同情する必要は全く無い。今後とも断固たる態度で中国共産党の暴政には抗議を続けていくべきであろう。
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