報道の自由度159位をどのように解釈するか


 今年も国際NGO団体国境なき記者団が世界各国の報道の自由度ランキングを発表した。日本は昨年の42位からややランクアップして37位。しかし先進国としては決して満足できる水準とはいえないだろう。とはいっても1位の七カ国が0.5ポイント、日本が8ポイント、100位のアラブ首長国連邦が25ポイント、最下位の北朝鮮が109ポイントであることを見れば、日本は1位の諸国と大差あるわけではなく、さほど懸念する状況ではないという解釈もできるかもしれない。
 1位になった7カ国はデンマーク、フィンランド、アイスランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スイスなどの北欧お主とする欧州諸国が占めている。8位以下もヨーロッパ諸国が多いが、12位にカリブ海のトリニダード・ドバゴがランク・イン。アフリカ勢ではベニンとナミビアが25位にきている。アジア勢では韓国が34位に入り、香港が日本に次ぐ39位、台湾が51位、モンゴルが53位に来ている。台湾はアジアの中では上位だが、先進国であり、民主主義国家として報道の自由度はまだ不十分な状態にあるのかもしれない。(日本もそうだが)
 全体的にアジア・中東地域の低さが目立ち、アフリカ勢よりも低水準にある。アセアン諸国やインドにはもうちょっと上を目指してもらいたいものだ。だが、このランキングにはフィリピンが139位、シンガポールが140位に来るなど、不可解な点もある(私が言いたいのは、フィリピンはシンガポールよりも自由度は高いのではないかということ)
 さて、気になる中国だが、まず過去の実績を見ると
2002年 139か国中138位
2003年 166か国中161位
2004年 167か国中162位
そして今年は167か国中159位である。
 最下位の栄冠に輝いたのは4年連続で北朝鮮。中国のこの順位について、どのような解釈ができるであろうか。北朝鮮が中国よりも低いことは納得できる。しかし、北朝鮮以外に中国よりも順位が低い国が7カ国もあることに対して、「何だ7カ国もあるのか。中国はまだましではないか」と思う方もいるかもしれない。確かに、中国共産党独裁国家よりも報道の自由度が低い国が8カ国もあるというのは意外に多いといわざるを得ない。一体この現状をどのように解釈すればいいのであろうか。
 ちなみに中国よりも順位が低い国は以下のとおり。
 160位 ネパール
 161位 キューバ
 162位 リビア
 163位 ビルマ
 164位 イラン
 165位 トルクメニスタン
 166位 エリトリア
 167位 北朝鮮
 金正日独裁政権が続く北朝鮮が中国より最悪の国であることは否定しようのない事実であろうが、そのほかの国についてはどうなのであろうか。一つ一つ検討していくこととしよう。
 ネパールは基本的にはギャネンドラ国王の独裁国家。特に今年2月に国王が内閣を解散させて自らを議長とする新内閣を発足させたのが評判を落としたのかもしれない。キューバはかの有名なカストロ国家評議会議長の独裁国家。リビアもかの有名なカダフィ大佐の独裁国家。ビルマもかの有名な軍事独裁政権の独裁国家。国家元首はタン・シュエ国家平和発展評議会議長。舌を噛みそうなほど長ったらしい肩書きだが99年までは国家法秩序回復評議会議長というもっと恐ろしい肩書きだった。私自身はミャンマーの軍事政権をそれほど「悪」とは見なしてはいないのだが、ノーベル平和賞受賞者であるアウンサン・スー・チーさんの自宅軟禁を続けるミャンマー政府に対しては欧米諸国の目は非常に厳しいのが現実である。イランは90年代後半のハタミ政権時代には民主化の兆しが見られたが、その後は保守派が巻き返し、民主派の政府、議員、マスコミは概ね封じ込められてしまい、再び硬直的なイスラム独裁体制に逆戻りした。特に8月に就任したアフマディネジャド大統領は欧米諸国からは非常に評判が悪い。トルクメニスタンは知る人ぞ知るニヤゾフ大統領の独裁国家。飛行機がニューヨークのビルに激突しようが、アフガンやイラクで戦争が起ころうが、この国のニュースのトップは「ニヤゾフ大統領の1日」。大統領の提案で、トルクメン語の「1月」と「4月」は、それぞれニヤゾフ大統領の母と、ニヤゾフ大統領本人を意味する単語に変えられてしまった。エリトリアは93年にエチオピアから独立した国だが、30年続いた内戦の復興が順調に進まない。私はエリトリアについて詳しいことは知らないのだが、この国は毎年報道の自由度で下位にランクしている。
 というわけで中国よりも下位に位置している国の多くは、キューバ、リビア、ビルマ、イラン、北朝鮮など、国際社会で厳しい批判にさらされている国が多い。
 では、客観的に見て中国はどのような国なのか。中国が時代遅れの共産党封建独裁国家であることは言うまでもないのだが、主に経済面から見てみよう。
GDPは1兆6500億ドルで世界第6位。
外貨準備高は香港を含めれば日本を越えて世界第一位。2,3年以内に単独で日本を超えて世界第一位となるのは確実。
貿易総額は日本を抜いて、アメリカ、ドイツに次ぐ世界第三位。
観光客数は年間約4000万人でフランス、アメリカ、スペインに次いで世界第四位。
投資受入額はアメリカを抜いて世界第一位。
携帯電話保有台数は3億台で世界第一位。
アテネオリンピックでの金メダル獲得数はアメリカに次いで第二位。
インターネット利用人口は1億人を突破し、日本を抜いてアメリカに次ぐ世界第二位。
1990年北京アジア大会開催、1996年ハルビン冬季アジア大会開催、1999年昆明国際花と緑の博覧会開催、2001年APEC上海会議開催、
2008年北京オリンピック開催予定、2010年上海万博開催予定、
世界遺産は31箇所・・・・・・などなど。
 これでわかることは、中国とは今や十分に国際化され、世界中と深く密接に結びついた国であり、トルクメニスタンやエリトリアのように名前さえもろくに知られていない国とはそもそもが比較すること自体が根本的におかしい。これほどまでに国際化されていながらミャンマーやトルクメニスタンと大して順位が変わらないということは言論の締め付けが相当苛酷に、しかも周到に行われているということを意味しているはずだ。ミャンマーは97年の観光イヤーの際には観光客25万人の目標を大幅に下回った。中国の百分の一以下である。トルクメニスタンやエリトリアに一体全体どれほどの外国人がいるというのだろう。こういった国々ではそもそもが言論や報道を締め付けることにさほどの努力は必要ないのではないかと思われる。
 中国のような国際化された国が報道の自由度では159位ということは、実際には160位以下の国々よりもかなりの人員と時間と資金と労力を用いているはずである。結論として、中国は世界中で北朝鮮の次に言論・報道の締め付けに力を入れていると断定していいと思う。最近の中国のテレビでは政府に対する批判も結構行われているなどという人はまだ考えが甘い。詳しくは何清漣氏の『中国の嘘』が参考になると思うが、中国のマスメディアにおける政府批判は結局のところ、政府の容認されているというか、政府によって「調節」された、一種の「パフォーマンス」であって、事実上中国では依然として政府批判など許される状況ではないというのが真相である。


 

 




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