張君は今


 これから私が書こうとしている内容は事実である。しかし、本人のプライバシーと安全を守るため、多少の脚色はある。しかし本質的に重要な部分は間違いなく事実である。これから私が書こうとしている内容は、多くの中国人、日本人、そのた大勢の人々にとって到底信じがたいことであろう。だがまぎれもなく、私が中国滞在中に張君(仮名)という中国生まれで外国に一度も出たことのない中国人と交流した体験談なのである。
 大学で日本語を専攻した張君は、4年間学習した学生として決して上手とはいえなかったが、私と会うときはいつも日本語でコミュニケーションをとることを望んでいた。彼は苦笑しながら私にこう述べたことがある。「中国は暗黒な社会だ。なぜ私はこのような暗黒な国に生まれてしまったのだろう」。張君は都市部の、どう考えても貧しくない家庭で育っている。普通に大学を卒業し、就職した。それでも自分の国について、ここまで本質を捉えることができる彼の能力が私にはとても不思議であった。
 彼は数十人が聞いている中で自信を持って語ったことがある。「私たち中国人は、中国共産党のおかげで今日の中国の繁栄があると教えられてきた。だが中国のGDPは日本の数十分の一に過ぎない。中国共産党はずっと我々中国人を騙してきた。歴史が示しているとおり、社会主義の国で先進国になった国は一つもない。世界中の先進国は全て民主主義国である。」張君の発言はまさに正論を正面から突いたものだろう。だがそれでも、この中国国内でなかなかこれほど率直に真実を語れるものではない。周りの中国人は皆気まずそうに苦笑いをしていた。おそらく皆張君の発言が正しいと思っているのだろう。だが誰もそれを口にはしない。少人数ならともかく、大勢の前で発言したところでなんら得をすることはない。金にならないし、就職が見つかるわけでも、出世できるわけでもない。ほとんどの中国人にとってそれは無駄な労力なのかもしれない。
 当時はまだ九評共産党は発表されていなかったが、その数年前から法輪功はスパムメールという手段を用いて、中国共産党の本質についての情報伝達をさかんに行っていた。メールをする中国人ならほとんどが受信した経験があるはずだ。人により、ほとんど読まないで削除したり、読んでも信じなかったり、信じてもさほど何も思わなかったり、信じてショックを受けたりと、反応は様々である。張君は法輪功から届けられたメールを真剣に読み、中国共産党の身の毛もよだつような残虐ぶりに心から憤慨していた。
 張君はしばしば私を驚かせる発言を繰り返した。中国のマスコミは、しばしば日本の「軍国主義化」なるものに警笛をならしている。そのニュースを見た張君に、「宮本さん、日本は今軍国主義化しているのですか」と尋ねられたときに私は何と回答したかどうしても思い出せない。その後の張君の「日本に中国を侵略してほしい」という発言があまりにも衝撃的であったからであろう。
 二人で喫茶店にいたときには、「アメリカでも日本でもどこでもいいが、もし外国が中国を侵略したら、私はみんなから漢奸と罵られてもその侵略軍を支持する」と述べていた。彼の考えはもちろん中国人としては例外的である。中国共産党独裁政権に不信感を持っている中国人は非常に多いが、外国に侵略してほしいとまで考える中国人には私は一人しかあったことがない。だがこれを単なる例外で済ますことができようか。彼はまぎれもなく中国で生まれ育った中国人であり、そこまで考えることにはそれなりの根拠があるはずである。そうなると、他の中国人の中にも、さすがに侵略してほしいというのは例外的であるにしても、共産党独裁が一日も早く終焉してほしいと思っている中国人は少なくないと考えても筋違いではないと思う。
 張君はさすがに、東アジアの諸問題の本質を見事に見抜いていた。この国の教育現場やマスコミで、洪水のように反乱している日本軍の侵略の歴史は、中国共産党が政権安定のために用いる手段であることも当然見抜いていた。私は彼に尋ねたことがある。「もし台湾政府が独立宣言をしたら、張君はどう思う。賛成?反対?それとも何も思わない?」張君は少し考えてから「台湾には独立宣言はしてほしくない。台湾独立に反対ということではなく、その場合戦争が起こって台湾にも中国にも多くの犠牲者が出てしまう」彼の答えは私を概ね満足させるものだった。誰しも戦争など望まないし、少なくとも彼は台湾独立そのものに反対ではなかったのだ。
 台湾問題については、私自身が彼の目を開かせるような発言をしたことがある。「台湾はかつて国民党の独裁であったが、李登輝政権時代に民主化を達成した。李登輝は台湾民主化の英雄である」。張君にとっては今まで受けてきた教育を覆す衝撃だったようだ。「宮本さんは私を暗黒から救い出してくださった。本当に感謝します」と言われたときは私のほうが驚いてしまったが。
 さすがに「日本のような偉大な政府に恵まれて羨ましい」と言われたときには素直には受け止められなかった。日本にも様々な問題があり、日本政府は決して優秀とはいえないと私は説明したのだが、張君に「中国の政府よりははるかにましだ」と言われると何も言い返せない。
 私は今張君とは連絡をとっていない。私が反中共的な考えを持っていることを当然彼は知っているし、だからこそ彼は私を尊敬してくれていたのだが、私がこの「打倒中国共産党」のホームページを運営していることは知らない。私は今張君とは連絡をとるべきではないと思っている。ただ口頭で中共批判をするだけなら、今の中国で公安から自由を奪われることはないであろう。だが私が自分のホームページを彼に紹介したとき、彼は興奮と感激のあまり、彼自身の安全を脅かす何らかの行動をとりそうな気がしてならない。
 張君には機会があればぜひ日本に滞在ほしいと願っている。民主主義社会を実感してもらいたいし、やはり彼が日本政府を偉大と褒め称えたことには違和感がある。中国とは状況は大きく異なるが、日本社会も数多くの問題を抱えているのだ。
 だが何よりも中国共産党独裁が一日も早く終焉することが望ましい。そのとき、私は安心して張君と、東アジアに訪れた自由と平和を喜び合うことができるであろう。


 





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