香港の旅行業界に見る中国本土との違い

 この数週間、香港の旅行業界が揺れている。CCTV(中国中央テレビ)が、中国本土からの買い物客が香港で偽造品を買わされたり、お金をぼられたりしたといスキャンダルを報道したのだ。
 さらに民主建港連盟が調査を行ったところ、中国本土からの旅行者の3分の1以上が香港での買い物でいやな思いをしたことがあるという。具体的には法外な値段を請求されたり、ほしくもないものを買わされたなどである。「香港旅行中に不快な経験をした中国人はは約400万人もおり、とても受け入れられる数字ではない、旅行者の権利を守るために香港特区政府には更なる対応を求める」、とのこと。
 香港を訪れる観光客は年間2500万人に達し、そのうち半数以上が中国本土からの旅行者である。香港の小売業界は特に本土からの買い物客をあてにしており、最近の無料ツアー(ツアー代金を極端に安く抑える代わりに大量の買い物をさせるツアー)が香港に悪いイメージを与える結果となっているようだ。
 4月後半の香港ATVニュースは「買い物客の楽園と言うイメージにはすでに傷がついています。来週から大型連休がはじまることもあって、香港がこれからも本土からの一番人気の場所であり続けるためには今まで以上の努力が必要です。」と論じている。

 

さて、このニュースを見て皆さんはどう思うだろうか。

 

 

何だ、所詮香港人も中国人と変わらない適当なやつらだ、と思うだろうか。

 

 

 

 

 

私は違う。

 

 

 

 

 

 

 

やはり香港は中国と違う、と感じる。


 私は中国滞在中、国内ツアーに何回も参加したことはあるが、不快な経験をする確立はほぼ100%である。猛烈に汚いトイレ(都会のトイレは改善されつつあるが、観光名所は僻地にあることが多く、依然として猛烈な悪臭と散乱した汚物に悩まされることが多い)、日程の半分近くを占める土産物店、世界的に有名な観光地に来ているはずなのに本当に有名な箇所を回るのはごく一部で、有名ではないところばかり連れまわされる、移動時間の極度の長さ、移動するバスや鉄道の窮屈さ、現地の人の冷たい対応などなど。

 香港で問題になったのは土産物に行く回数の多さ、偽造品、ぼったくりなどであるが、こんなのは中国の国内旅行では日常茶飯事である。私は雲南省の麗江や大理などを周るツアーを申し込んで、非常に楽しみにしていたのに、実際に参加してみたら土産物屋ばかり連れまわされて失望の連続だった経験がある。一般的に中国の国内ツアーは飛行機、宿泊、食事、バスでの移動、添乗員の付き添いなどすべて込みで日本円で1〜2万円程度の超格安で設定されていることが多い。具体的に説明するまでもなく、観光客を毎日数箇所の土産物屋に連れて行って大量の買い物をさせることによって利益を出すのである。その買い物も自由度が低く、団体客を個室に閉じ込めて店の従業員が商品について20分ほど説明や実演を行った後に買い物を行うというパターンが多い。添乗員の態度も何かと露骨で、「できるだけたくさん買い物をしてください。そうしないと私は食べていくことができません」などと発言したり、客から苦情が出ると「あなたたちを土産物屋に連れて行くことは添乗員の義務であり、必ず連れて行かなければなりません」などと開き直ったりする。またあるときは、ツアー客がある土産物屋での買い物を終えて皆が一通りバスに戻った後で、添乗員がみんなからレシートを集めて一旦バスから降りて、しばらくしてまた戻ってきてからみんなに「〜を買った人」と叫んで先ほど回収したレシートを返すなどというずいぶんと面倒なことまでしていた。
 ぼられるのも日常茶飯事で、ある中国人男性はテーマパークで占い師に見てもらったところ、「あなたはこれからビジネスで大成功する可能性がある。私がおまじないをすれば必ず成功するからあとさらに200元払いなさい」と言われた。その男性が「いや別にいいよ。信じてないから」と応えたらその占い師は激怒して「信じてないのならそもそもなぜ占いをするんだ!」などと叫んだりして収拾がつかなくなったので仕方なく20元を払ってその場を離れることができたと言う。いまここに書いたのはほんの一例で、中国で旅行をしていれば珍しくない経験だ。中国人はもちろん親切な人もたくさんいるが、信じがたいほど不親切で意地悪な人も多く、日常生活でも旅行中でも激しい口論を頻繁に目撃する。私もそのような口論に何度も巻き込まれたことがある。(ただし、中国人が冷たい態度をとるのは相手も中国人である場合が多く、外国人に対して態度がある程度丁寧になることが多い。)
 そのほかにも中国での旅行はホテルの設備のお粗末さ、鉄道やバスなどの窮屈さなど、数え上げればきりがないほど不快な要素が多い。これは私のような外国人に限らず中国人自身が同じように感じており、「旅行とはお金を払って苦痛を買うもの」というジョークが中国人の間でもよく言われているほどだ。
 それに比べたら香港などはるかにましではないのか。考えてみよう。中国や香港に限らずどこに旅行に行こうが、3割ぐらいの可能性で何かしら不快な経験をするのは普通のことではないだろうか。香港の旅行には確かに改善すべき点はあるだろうが、中国国内旅行よりはあるかに条件は良好であるのは間違いない。にも関わらず、CCTVの報道に過剰に反応してマスコミ、政府、野党が真剣になって改善に取り組むその姿は、香港人が日本やシンガポールや欧米などと同様、先進国にふさわしい勤勉さを兼ね備えていることを意味している。
 そもそも、この数年中国人旅行者の不潔さやマナーの悪さが世界中で問題になっており、香港でもディズニーランドのイメージ悪化につながるなど、土産物観光などよりはるかに深刻な影響をもたらしている。中国人旅行者のマナーの悪さが殊更問題となるのはなぜだろうか。私は中国人という民族を本質的に軽蔑するつもりはないので、二次的な原因を述べることにしたい。何と言っても中国の富裕層には短期間で急激に成金となり、学歴や教養のない人が多いことが挙げられる。中国共産党の絶頂期とも言える30年前の中国は世界のどの国よりも近代文明と縁のない野蛮な封建社会であった。中国共産党は党と毛沢東主席への絶対的な忠誠心を人民に強要することには大成功を収めたが、人民を近代社会にふさわしい人材へと育成することには全く力を入れないどころか、むしろ人民の文明度を低下させることに力を注いできた。中国人民が文明社会に触れる機会を持つようになってわずか30年である。この問題は当分解決しそうもない。現在の中国の新興富裕層がマナーや教養を身につけたところで、新たに貧困から脱却した新・新興富裕層が国内外で迷惑をかけることであろう。私が思うに、CCTVの報道は、普段中国人が世界中で、特に香港でマナーの悪さを批判されることに苛立ちを感じ、香港に仕返しをしたかっただけなのではないかと思う。

 中国では5月1日からメーデーの7連休を迎えた。香港特区政府は観光客の激減を覚悟していたようだが、結局杞憂に終わったようだ。連休中の中国本土からの観光客は前年比で25%も増えたと言う。「香港へ旅行した中国人の3割は不快な経験をしている」というのは、「3割しか不快な経験をしていない」と言うのが正しい。

 





100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!