雲南省は少数民族の密集地として世界中に知られており、行政区域には民族自治州や自治県が数多くある。その中のひとつがデチェン・チベット族自治州である。同自治州は23870平方キロメートルの広大な面積を有しているが、人口はわずか33万人。四川省のガンゼ州とチベット自治区に挟まれており、雲南省の最北端、チベット文化圏の最南端に位置する。

　人口は少ないが民族構成は非常に多様で全部で16の民族が居住していると言われている。チベット族の人口比率は33％程度であり、リス族が27.78%を占めるのが特徴的だろう。漢族は16.39％である。アバ州やガンゼ州が人口構成においてチベット族が圧倒しているのと比べると、以下の表を見てわかるとおり、デチェン州は他の少数民族の割合がかなり高い。チベット全体から見ればほぼ最南端に位置するデチェン州はチベット世界と他の漢・チベット語族の民族世界との境に接しているのだ。

　デチェン州は古代チベット王朝のときからその支配化に組み込まれたほか、ペー族の大理王朝、梁王国、ナシ族の木氏によるジャン王国、モンゴル人のグシ・ハーン王朝などの支配を受け、1724年に清王朝がこの地域を雲南省に組み込んだが

その後も事実上チベット人領主による政教一致の統治システムは続いた。1950年に中国共産党によって侵略され、1957年に麗江地区のデチェン州が設置され、1973年にデチェン・チベット族自治州となって今日に至っている。

　チベットの他の地域と同じく、デチェン州も壮麗な自然に恵まれているが、特筆すべきはなんといっても2003年に世界自然遺産に登録された三江併流である。金沙江、瀾滄江、サルウィン川（怒江）がデチェン州から怒江リス族自治州にかけて並行に流れている。それだけでなく、生態系も非常に豊かで791種の動物、約6000種の植物が確認されており、この地域の固有種も多い。世界遺産に登録されたのは川だけでなく、高黎貢山や梅里雪山など、8つの山岳地域が含まれている。

デチェン州の行政区分はシャングリラ県、徳欽県、維西リス族自治県に分けられる。

　シャングリラ県は州政府所在地で、もともと中甸（ちゅうでん）県と言ったが、2001年に現在の地名に改称された。面積は州の約半分を占め、人口は147416人で、チベット族が占める割合は43％。4つの鎮と7つの郷があり、県の南部にはナシ族の民族郷もある。県中心部から北に5キロのところにある松賛林寺（チベット名ソンツェン・ゴンパ）は雲南省では最大のチベット寺院でゲルグ派に属している。17世紀初頭に創建され、1674年に大規模な拡張が行われて総面積26万平方メートルの大寺院となった。現在でも700人の僧侶を抱えている。

　徳欽県はデチェンの音訳だが、デチェン州と異なる漢字が当てられている。人口は人口は6万2400人で州内で最も少ない。四川省ガンゼ州、及びシャングリラ県とは金沙江によって隔てられている。北部には有名な梅里雪山が聳え、標高6740メートルはデチェン州の最高峰である。県内には2つの鎮と6つの郷があり、南部にはリス族の郷が２つある。徳欽県ではチベット族の割合が80％を超えており、さらにリス族が15％を占めており、漢民族の割合はごくわずかである。

　維西リス族自治県は面積は州内で最小だが、人口は15万人に達し、州内最大である。以前は単に維西県と言っていたが、1985年に民族自治県に改称された。3つの鎮と7つの郷を抱えている。すぐ西隣は怒江リス族自治州であり、ちょうどチベット文化圏とリス文化圏の中間に位置している。リス族は中国全土に64万人が居住しており、怒江リス族自治州の西はミャンマーと国境を接しており、リス族はミャンマーやタイにも数万人が居住していると言われている。独自の宗教をもっているほか、キリスト教徒も多い。維西県内のリス族は約8万人で総人口の55％に達している。以下、漢民族が16.7％、ナシ族が12.44%、チベット族は7.77％に過ぎず、ペー族5.57%、イ族1.3%、プミ族0.96%となっている。

　ここまで見てきて分かるとおり、デチェン州はチベットの最南端に位置しており、リス族、ナシ族、ペー族など多様な民族が入り混じる民族の十字路となっており、さらに三江併流や梅里雪山などの壮麗な自然によって多様な動植物の宝庫ともなっているのである。

松賛林寺

梅里雪山

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