ムリ県について

 

 最近はチベットとは単にチベット自治区のみならず、周辺の青海省や四川省などにまたがっていることが知られるようになってきた。ネット上では本来のチベットの領域として甘粛省や四川省の自治州の名称が紹介されており、ムリ・チベット族自治県の名前もしばしば目にする。とはいっても概ね名称と場所のみに限られており、ムリ・チベット族自治県について日本語で情報を得るのは困難なのが現状であろう。

 ムリ県について説明する前に涼山州について説明しなければならないだろう。四川省の南部に位置する涼山イ族自治州は面積が60423平方キロメートル。人口は415万人。中国人が219万人、 イ族が182万人となっている。州都は西昌市で人口57万人。そのうち8割以上が中国人で占められているものの、西昌市以外は概ねイ族が多数派である。涼山州といえば衛星発射基地があることで有名。1996年に発射された人工衛星は発射直後に方向が傾いて墜落。500人の死者を出したといわれる。涼山州には1市12県があるが、そのうちムリ県のみチベット族の自治県となっており、ほかには自治県は存在しないが、もともと涼山州がイ族の自治州という位置づけなので、イ族が多数派の県でも自治県とは言わない。

 涼山州の西部に位置するムリ(木里)チベット族自治県は面積13252平方キロメートル(長野県と同じぐらい)。チベット高原と雲貴高原の結合部分に位置している。ムリ県もチベットの他の地域と同様、険しい山岳地帯であり、4千メートル級の山々が連なり、最も標高が高い地点は海抜4488メートル、低い地点は海抜1470メートル。平均海抜は3100メートルである。ムリ川(リタン川)と水洛川が南北に縦断している。

 気候はチベットにしては比較的過ごしやすく、年間平均気温は11.5度、7月の最高気温17度というのはかなり低いように思えるが、1月の最低気温が4.2度なので寒さはそれほど厳しくないといえる。平均年間降水量は818ミリで、6月から9月の雨季に降水量の86%が集中する。ただし、暴風雨、土石流、旱魃、地震などの自然災害は比較的多い。

 ムリ県の人口は126268人、涼山イ族自治州の中で最大の面積を誇りながら人口は最小であり、人口密度は1平方メートルあたり9人に過ぎない。民族構成はチベット人が41175人、イ族が35121人、中国人が27253人である。県内にはチベット人、中国人、イ族のほか、ミャオ族、モンゴル族、ナシ族、プイ族、リス族、回族、ペー族、チャン族、トウチャ族、満族、シボ族、タイ族など、わずか12万6千人の人口の中に17の民族が割拠している。水洛郷では、チベット人の間でもすでに衰退している一夫多妻や一妻多夫、屋脚郷では通い婚の風習が今でも残っているとされている。

 行政区分としては、一つの鎮と28の郷があり、県政府は橋瓦県にある。28の郷のうち5つはチベット族以外の自治郷である。すなわち、俄亜ナシ族自治郷、屋脚モンゴル族自治郷、白?ミャオ族自治郷、項脚モンゴル族自治郷、固増ミャオ族自治郷である。チベットの行政区分は非常に複雑だ。例えば固増の場合だったら、四川省涼山イ族自治州ムリチベット族自治県固増ミャオ族自治郷となる。ムリ県の民族構成の複雑さを考えると、歴史的に様々な民族がこの地域を行き来し、他の民族との衝突や融和を繰り返しながらこの地に定着してきたであろうことは想像に難くない。実際にムリ県の南側には雲南省のイ族やナシ族の自治県が位置している。

 ムリ県ではもちろんチベット仏教が盛んである。ムリ大寺、康烏大寺、瓦爾寨大寺がムリ県の三大寺院と言われ、中でも1661年創建のムリ大寺が最も有名である。ゲルグ派の寺院であり、最盛期には建築面積だけで8万平方メートルを誇ったという。ムリ大寺では毎年チベット暦の10月25日に燃灯祭りが行われる。
また、風光明媚なムリ県はしばしば「緑の宝庫」、「天然の動物園」、「黄金世界」などと称される。シャングリラや亜丁などの国家級風景名勝区の重要な一部分を構成している。

 ムリ県には空港も鉄道も高速道路も国道もない。ムリ県へのアクセスについて述べる前に涼しいイ族自治州の西昌へのアクセスについて述べる必要があろう。四川省省都である成都市から西昌までは飛行機だと30分程度だが、鉄道で10時間、高速道路で6時間ほどの距離である。そして西昌から省道で254キロ突き進むとムリ県の中心部である橋瓦鎮に到着する。ムリ県に入る前の塩源県ですでに険しい山岳地帯となっており、日本の高速道路のようにスムーズに行けるわけではない。県の生命線となっているこの省道は橋瓦鎮を通り過ぎた後北上してガンゼ州の稲城県に到着する。

 チベット全体から見るとムリ県は小規模な地域に過ぎないが、それでも長野県に匹敵する広大な面積を有し、17の民族が多様な文化を織り成し、豊かな自然にも恵まれた魅力溢れる地域であることにかわりはない。

  

 


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